五十嵐 裕基(いがらし ゆうき)さん
1985年生まれ。オーダーメイド紳士服販売のLECTEUR(レクトゥール)代表。南麻布に大人の隠れ家さながらのサロンを設け、紳士服をフルオーダーやパターンオーダーで販売されています。「提供しているものは服だが売っているものはスタイル」をモットーに、お客様が一番映えるスタイルを提案されています。前職は衣料品ブランドの販売員。自社の商品のみにこだわらずお客様に最も似合うスタイルを提案してきた異色の販売員でした。
五十嵐さんは、お客さんを満足させる達人だ。
どうやったら満足してもらえるのかを知っている。
そして数少ないチャンスでそれを成功させる達人でもある。
リピーターを増やした秘密の方法
前職のころ、入職してすぐはバックヤード業務ばかりだった。
「店頭に出たかったので、”売るから出してくれ”と直談判して週2日だけ出してもらいました」
結果、全国の個人セールスの上位になった。
どんな工夫をしたのだろうか。
「お客様の名前を漢字でフルネームでこちらで書くってことですね」
商品の特性上、必ずお直しが入る。
そのお直しの伝票の記入を漢字フルネームでやった。
一度ご来店されたお客様が書いた伝票を見て、お名前を覚える努力と工夫をした。
「”覚えていてくれたんですね!”と言って戻って来てくださる方が増えましたね」
結果として店頭に出られる日が増えた。
与えられた数少ないチャンスを自分のものにできる人がプロとして高く昇っていける。
五十嵐さんはそれができた。
「できることが少ないからそれをやっただけですよ」
謙遜するが、できることを長くやり続けていくことは言うほど簡単なことではない。
「人に興味があるんだと思います。だからじっと観察してしまうというか。その上で喜んでもらえると嬉しいです」
喜んでもらうスキルを身に付けた方法
五十嵐さんはブランドを問わず服のことをよく知っている。
商品理解が深い、ということだ。
一方で、販売は顧客を理解することも重要になる。
相手の心理。求めているもの。
それを理解するスキルはどのように身に付けたのだろうか。
「実は私にはメンターが何人かいるんですが」
学生時代にお世話になった、1人目のメンターのことを教えてくれた。
「その人に”赤いモノ探してご覧よ”って言われて」
ポストや赤信号などを挙げた。
「そうしたら”人生もそれと一緒だよ。何を探すかで見えてくるものが違うんだよ”と言われまして。それを言われた時に自分の中のリミッターが外れた感じですね」
そのあと、ビジネス書を何百冊も読んだ。
行動心理学の本は特にたくさん読んだ。
そういった知識を取り入れながら、自分なりの工夫をした。
お客さんに喜んでもらうのが楽しくなった。
もっと喜んでもらうには?もっとサプライズをするには?
「そう考えるようになったのがきっかけだと思います」
喜ばれるのは、こだわり抜く姿勢
サービスだけでなく、商品も喜ばれるものを揃えている。
「商品はちゃんとストーリーがあるものしか扱わないんです」
”普通にお店で並んでいても売れにくい物”なのだという。
ある超一流ブランドのチーフを作っているチーフ屋さんのもの。
職人さんが通常10~20分で終わる作業を1時間かけて磨き上げたもの。
こだわりを持って選んだものばかりが並ぶ。
商品ライフサイクルが短い時代。
「そういう時代でも、職人さんが人生の時間を切り取って作ったものは長く使ってほしいですね」
職人さんが手をかけた良いものは雰囲気が出る。
究極にシンプルにするまでに手間がかかる。
そういうものは、お店に普通に並んでいていても売れる商品ではない。
「時代にいかに逆行できるかが勝負と思っています。顔を突き合せて、いい物・良質な物をご提供していく。そういうものを少量でいいので持っていると幸せです」
どの商品も背景を持っている。
「お客様に”これは?これは?”と次々尋ねられたりします。けっこう喜ばれますね」
こうしたやり取りとストーリーの面白さが満足の源になったりする。
「マニアックなものばっかり扱ってます」
五十嵐さんはそう言って笑うが、つまりはこだわり抜いたものだけを扱っているということだ。
ストーリーは無口だ。
人が語ることで初めてその物語に触れることができる。
恋人と関係がうまくいっている時に失恋の歌を聴いてもピンとこない。
失恋した時に失恋の歌を聴けば強い共感が生まれる。
歌そのものに良し悪しがあるのではなく、人の心が価値を決めている。
着るものもきっと一緒だ。
だからストーリーを語る。
お客様を観察して相手の状況に応じた提案をする。
お客様に何が起こってほしいのかをすべての中心に据えている。
「良いスピーカーの音を聴いた人は悪いスピーカーを聞き分けられますし、良い素材の料理を食べていれば添加物などにも敏感に反応できますが、逆はないですよね。知らないと何がいいか分からない。だから良質なものを知ってもらいたいし、紹介したいと思っています」
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